2015年06月21日

「発達障害」って何? 第60回 共生社会を目指して ~特別支援教育からインクルーシブ教育へ~

第60回 共生社会を目指して
 ~特別支援教育からインクルーシブ教育へ~




 共生社会という言葉を耳にすることが増えてきたと思います。

文部科学省の定義では、「共生社会」とは、障害者等が、積極的に参加・貢献していくことができる社会のことです。
それは、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い、
人々の多様な在り方を認め合える全員参加型の社会のことを言います。
このような社会を目指すことは、我が国において最も積極的に取り組むべき重要な課題であるとされています。

 「インクルーシブ教育」とは、
人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、
自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的のもと、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みです。
共生社会の学校版みたいなイメージでよいと思います。

 そこで、共生社会の形成に向けて、
障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育の理念が重要であり、
さらに、その構築のため、発達障害だけでなく、
すべての子どもたちの個々のニーズに合わせた特別支援教育を着実に進めていく必要があると考えられています。

(小児神経科医 宇野正章)

滋賀の情報紙びぃめ~る HP  


Posted by Becafe at 11:07Comments(0)宇野先生のコラム

2015年02月28日

『発達障害』って何?第59回 発達障害の診断基準の変更について

発達障害の診断基準の変更について

発達障害の方の診断に際しては、米国精神医学会のDSMが主に用いられています。
このDSMの第5版(DSM-Ⅴ)が、2013年に新たな変更を加え公表され、2014年5月に邦訳が出版されました。

その主な変更点は、新たに神経発達症群という枠組みが作られ、
発達障害が、生涯を通じて影響を及ぼす新たな疾患単位として位置づけられたことでしょう。 

この中で、AD/HDは、注意欠如・多動症または注意欠如・多動性障害という邦訳となり、
従来、7歳以前に症状がみられることが必要とされていましたが、
12歳以前に変更され、成人のAD/HDの定義が明文化されました。

広汎性発達障害についても、名称が自閉スペクトラム症(ASD)に変更されるとともに、
言葉の発達そのものは必須症状から取り除かれ、新たに知覚過敏・鈍麻が付け加えられました。
そしてAD/HDとASDの併存がようやく認められました。

これまで成人期の診断の困難さや両者の併存が非常に多いといった医療現場の声に対応した現実に即したものとなっており、
この診断基準のリリースにより、発達障害の診療や支援が大きく進歩することが期待されます。

(2015年3月1日びぃめ~る100号掲載 小児神経科医 宇野正章)

滋賀の情報紙びぃめ~る HP  


Posted by Becafe at 20:15Comments(0)宇野先生のコラム

2014年12月11日

『発達障害』って何?~第58回「発達障害の就労について」

『発達障害』って何?~第58回「発達障害の就労について」

アスペルガー症候群やADHDで知的に高い人たちは、高校や大学までは勉強もでき、対人関係も問題にならないことが多いです。
しかし就職すると、同僚や上司、取引先との人間関係が不器用で、
さらには、時間や金銭管理、感情コントロールなどが困難になり、仕事に差し障りが出てくることが多く見られます。
結果、就労しても仕事が続かず、転職を繰り返したり、引きこもりになったりすることにもつながります。
また、うつ病、不安障害や依存症などの合併症もしばしば認められます。

このように、発達障害があると、就労は一般の人たちと比べて難しいですが、
うまく社会に適応できている人たちもたくさんいます。

社会適応力を高めるためには、
①本人が自分の特性を理解していること、
②周囲の人たちの理解と支援、
③必要最低限の社会性(受動的なコミュニケーションスキルなど)、
④特性に合った職場の選択、といったことが大切です。
また、昼夜逆転や身の回りの管理ができずに生活が破たんすることが多いので、
進学や就職に際して、一人暮らしはできるだけ避けたほうがいいでしょう。

(2014年12月1日びぃめ~る99号掲載 小児神経科医 宇野正章)

滋賀の情報紙びぃめ~る HP  


Posted by Becafe at 21:15Comments(1)宇野先生のコラム

2014年09月19日

『発達障害』って何?~第57回「双極性障害とADHD」

『発達障害』って何?~第57回「双極性障害とADHD」


双極性障害(いわゆる躁うつ病)は、うつと躁状態を繰り返す病気で、
ADHDの40~80%に併存することはよく知られています。

ADHDは、双極性障害の躁状態とよく似た症状(易刺激性、多弁、活力の増大、注意散漫)
を呈することがあり、両者を区別することは困難なことがしばしばあります。
ただし、イライラや怒りなどの症状は、ADHDに比べ双極性障害の方が長時間に渡って
続くことが知られています。
ADHDの子どもが途中から双極性障害を発症してくることや、ADHDと診断されていた
子どもが実はADHDではなく双極性障害であったということも時に見られます。

双極性障害に見られADHDに見られない症状としては、気分高揚、誇大妄想、
考えの競い合いや睡眠欲求の減少などがあります。
なかでも2~3時間の睡眠でよく休めたと感じ、それでも疲れを感じないという「睡眠欲求の減少」は、
自覚的にも他覚的にもわかりやすい双極性障害の特徴です。

治療は、双極性障害では、気分安定薬や非定型抗精神病薬といった薬剤を中心とした薬物療法と、
再発をコントロールする方法などを指導したりといった疾患教育や、対人関係のストレスへの対処や
社会リズムを一定に保つことを目指す対人関係社会リズム療法(IPSRT)などの心理社会的治療法が中心となります。

ADHDでは中枢神経刺激薬などの薬物療法と行動療法が有効でとされていますが、
ADHDと双極性障害が合併している場合は、薬物によるADHD症状のコントロールが必要となることが多いようです。

(2014年9月1日びぃめ~る98号掲載 小児神経科医 宇野正章)


滋賀の情報誌「びぃめ~る
  


Posted by Becafe at 08:36Comments(0)宇野先生のコラム

2014年06月04日

『発達障害』って何?~第56回「ADHDと被虐待児について」

『発達障害』って何?~第56回「ADHDと被虐待児について」

虐待を受けた被虐待児にADHD様症状が見られることはよくあります。
そのため第4の発達障害と言われることもあり、ADHDと見分けることはしばしば困難です。

浜松医科大学の杉山登志郎先生は、先天的な(遺伝的な)ADHDとの違いとして、
次のようなものを挙げられています。

①ADHDは多動が比較的1日中であるのに対し、
虐待によるADHD様は多動にムラがあり、夕方からハイテンションになることが多いとされています。

②対人関係ではADHDは単純で素直である一方、
被虐待児では、愛する人に反抗的になったり逆説的で複雑な行動様式をとることが多く、周囲を戸惑わせます。

③お薬については、ADHDは中枢神経刺激薬などのADHDの薬物療法が有効ですが、
被虐待児では無効、むしろ抗うつ薬と抗精神病薬が有効なことが多いです。

④その他の精神疾患の合併は、ADHDは反抗挑戦性障害や非行への以降が比較的少ないのに対し、
被虐待児には非常に多いとされています。
特に多重人格や健忘などを示す解離性障害はADHDでは通常見られないですが、被虐待児では多く見られます。

以上が鑑別点ですが、ADHDに虐待が重複していることもしばしば認められます。

(2014年6月1日びぃめ~る97号掲載 小児神経科医 宇野正章)

滋賀の情報紙びぃめ~る HP  


Posted by Becafe at 00:00Comments(0)宇野先生のコラム