2008年01月28日

第20回 子どもの発達とメディアについて(4)

~メディア中毒にならないために~

 メディア中毒になっている人への対策として海外では以下のことが推奨されています。

(1)テレビ日誌をつける:意外にテレビなどメディアを利用している生活に気付くことができます。
(2)他のことをしてみる:メディア以外の他の活動リストを作ると、いろいろ他にできることがあることがわかります。
(3)思い切って消す:意外につまらなくても見てしまうのがメディアです。
(4)限度を設ける:制限時間を設けるのですが、親の命令よりタイマーのほうが有効なことが多いようです。
(5)チャンネルを遮断する:海外では、Vチップというものを利用して、勝手にテレビを見られないようにするものがあります。
(6)番組を選んでから見る:毎週見る番組を決め、それ以外は見ないようにします。
(7)ビデオやDVDの活用:録画したものしか見ないようにすると、意外に見ないものですし、毎日の生活のスケジュールが立てやすいといったメリットがあります。
(8)禁断状態を設ける:少し乱暴ですが、テレビを離す、捨てる、など

 メディアとの付き合い方の教育は、日本では海外に比べ少し遅れているようです。次回は、趣味の大切さについてお話したいと思います。                                  (2006/4/1びぃめ~る49号 小児神経科医 宇野正章)

  

2008年01月28日

第19回 子どもの発達とメディアについて(3)

~軽度発達障害児がなぜメディアにはまりやすいか~
 軽度発達障害の子どもさんは、幼児期からメディアとの接触時間が長いことが知られていますが、その要因として以下のことが考えられるかと思います。

・集団の中に入ると他の子とトラブルになる、一緒に遊べない、周囲から変に思われる、恥ずかしいなど、他の子どもとうまく行動できないことで、保護者が外にでるのが億劫になる。
・落ち着きがなく目が離せない、パニックを起こすなどの育てにくさがあるが、テレビやビデオを見せるとおとなしくしてくれる。
・保護者も同様に、メディアにはまっている。
・メディアはこだわりの対象になりやすい。
・保護者が、友だち付き合いが苦手な軽度発達障害の子どもたちにとって、メディアがコミュニケーションの手段になると思っている。
・テレビやビデオから言葉を覚えることが多く、言葉の発達に良いと思っている。

 メディアの制限が後の不登校やひきこもりを予防できるといった科学的な研究はありませんが、臨床的には、メディアを保護者が管理することで、
(1)言葉の発達が改善される
(2)活動が広がりさまざまな能力の偏りが是正される
(3)腰軽く動くことが可能になり、叱ることが減ってくる
などの効用はありそうです。ただ、メディアを制限すればよいといったことではなく、軽度発達障害の子どもさんだけでなく、多くの子どもたちが野外で楽しく活動できる社会的資源を増やす、地域ぐるみの子育て支援を考える必要があるかと思います。
 次回は、メディアとの付き合い方のコツについてお話したいと思います。
(2006/2/1びぃめ~る48号 小児神経科医 宇野正章)

  

2008年01月28日

第18回 子どもの発達とメディアについて(2)

 日本小児科医会の行ったメディアと子どもの行動との関連についての調査では、『2時間を越えるあたりから行動異常が増えはじめ、テレビなどの平均視聴時間が4時間以上になると、行動異常が顕著に見られる』との結果でした。
 これをふまえて日本小児科医会は以下の提言を出しています。

日本小児科医会のマスメディアの問題に対する提言(健常児)

(1)2歳までのテレビ・ビデオ視聴は控えましょう。
(2)授乳中・食事中のテレビ視聴はやめましょう。
(3)すべてのメディアへ接触する総時間を制限することが重要です。1日2時間までを目安と考えます。テレビゲームは1日30分までを目安と考えます。
(4)子ども部屋にはテレビ・ビデオ・パソコンを置かないようにしましょう。
(5)保護者と子どもでメディアを上手に利用する方法を考えましょう。

(ここで言うメディアとは、テレビ ・ ビデオ ・ テレビゲーム ・ 携帯ゲーム ・インターネット・携帯電話をさします。)

次回は、軽度発達障害児が何故メディアにはまりやすいかについてお話したいと思います。        (2005/12/1びぃめ~る47号 小児科医 宇野正章)
  

2008年01月28日

第17回 子どもの発達とメディアについて(1)

 最近、テレビと子どもの発達の関係が話題になっていますが、これは日本小児科学会が行った『1歳半健診でのテレビの視聴と言葉の遅れの関係を見た調査研究』がその根拠のひとつになっています。
 この調査から言えることは、ことばの発達の初期段階では、テレビが発達を阻害する可能性があるということが考えられます。その理由として、ことばの発達には、相互性(子どもの行動に母親が反応すること)、母親からの適切な話しかけやそれに伴った五感(視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚)の刺激を加えること、母親を心地よいものとして子どもが意識すること、が重要であることは広く知られた事実です。
 ことばを獲得する2歳までに、テレビの聴覚・視覚刺激が常にある中で育てば、母親の声や姿を子どもがとらえにくくなり、母親の声に意識が向きにくくなります。また、テレビの聴覚・視覚刺激は一方通行で相互性を持ちません。その結果として、ことばの遅れがテレビがつきっぱなしの家庭の子どもで高率に見られることが十分納得できることではないかと思われます。
 もちろん長時間テレビがついている家庭の子どものすべてにことばの遅れが見られるのではなく、先天的にことばの発達の弱さを持った子どもたちが特にこの影響を受けるのではないかと推定されます。(2005/10/1びぃめ~る46号 小児神経科医 宇野正章)
  

2008年01月28日

第16回 生活リズムと生体リズム

 生体のリズムと生活リズムが調和していないと、心身への負担やストレスが大きくなります。
特にこだわりがあったり、感覚過敏や対人関係の弱さのある人では、
(1)好きなことに没頭して時間を忘れる 
(2)刺激の多い昼間の活動をおっくうがり、逆に刺激の少ない夜はリラックスできるので夜ふかししてし まう 
(3)周囲と孤立する傾向があるため社会のリズム(学校に行く、友達の家に遊びに行く等)からずれてしまう
など生活リズムが夜更かし朝寝坊で、昼間外出したり身体を動かさないといった傾向が強く、生体リズムとずれてしまいがちです。生活習慣や生活のリズムを整えるポイントは、睡眠、食事、太陽の光と昼間の活動です。

1.睡眠
早寝早起きが重要ですが、そのコツについては前回お話したとおりです。

2.食事 
食事と食事の時間が空きすぎたり決まっていないと、自律神経のリズムが乱れます。また、食事の間隔があきすぎるとお腹がすき過ぎて過食になりやすいとも言われています。食事量が多くなると普段より長く交感神経が働くことになり、これもリズムが乱れる原因になります。食事は決まった時間にバランスよく適量とることが理想です。
朝ごはんをしっかり摂ることは、体温を上昇させこれからの一日の活動に備えて、生体のリズムを整える働きがあります。朝ごはんにはタンパク質(卵、牛乳、豆腐、肉、魚等)と糖質(ごはん、パン、芋類等)をしっかり摂りましよう。タンパク質は、体の体温を上げるためのウォーミングアップ剤です。糖質は脳のエネルギー源で、脳を活発にさせる働きがあります。

3.太陽の光 
生体のリズムの形成には、最も重要です。朝目覚め光の刺激が目に入りますと、脳に情報が送られ、これが生体のリズムを調整します。太陽の光を浴びて深呼吸や体操をしてみましょう。

4.昼間の活動
昼間に身体を動かすこと。家の中にずっといないで出て行くこと。家の中でできる好きな活動を、ある程度制限することも必要でしょう。

 生活にリズムをもたせた良い生活習慣が心身の疲労を軽減し、ストレスにも強くなります。睡眠や食事は、疲れた心や体を回復させるのに必要な要素です。食事や睡眠を過不足なく摂ることで自然に体のリズムができ、自律神経の働きやホルモン分泌が順調になります。その結果、疲労やストレスの回復力を高めストレスに対する抵抗力も強くなるのです。また、『朝の空気はおいしい』など、健康な生活をすることの気持ちよさを常に実感することを、子どもに教えていくことも大切です。        (2005/8/1びぃめ~る45号 小児神経科医 宇野正章)
  

2008年01月28日

第15回 特別支援教育推進上の課題 

~子どもの生活指導2 生体リズムをととのえるために~

 活動する・休む・眠るという基本的なリズム、および体内の働きを生体リズムといいます。広汎性発達障害と生体リズムの不安定さは密接に関係していることが明らかになってきました。この不安定さのために睡眠不足になり、結果として、学校に適応できないなどの症状が出現することも少なからずみられます。また、保護者の方も同様にこれらの問題を抱えておられることも少なくありません。そしてこの問題が深刻なのは、そのことの重要性が本人にも周囲にも自覚されていないことです。
 この生体リズムをととのえるには、規則正しい睡眠は欠かせません。特に発達障害の子どもは寝つきが悪く入眠時間が遅くにずれ込むことが多いようで、その理由は感覚過敏などさまざまなことが原因になっているものと推定されます。今回は、寝つきをよくするための寝る前の行動についてお話します。

 寝る1~2時間前から脳をリラックスさせることが大事。いったん布団に入った後でも、眠れない時は無理に眠ろうとせず、布団を出て気分を変えるのも一つの方法です。できれば眠くなるまで布団には入らないように。また、布団の中で、好きな本を読む、ゲーム、ケータイなどをしないようにしましょう。

一般的な寝つきを良くするコツを箇条書きにします。
(1)ぬるめのお風呂にゆっくりつかる 
(2)カフェインが含まれていないハーブティを飲む 
(3)眠りを誘う音楽や心が落ち着くビデオを鑑賞 
(4)空腹の時はホットミルクを飲む 
(5)就眠3時間前から室内の照明をダウンさせる(真暗より薄暗い程度、蛍光灯より白熱灯、直接照明 より間接照明) 
(6)寝袋、身体を強くしばる、マッサージなどの刺激がよいことも 
(7)就眠儀式はあったほうがいい(歯磨き、ストレッチ、ぬいぐるみなど)

寝る前には以下のことは避けて下さい。
(1)熱いお風呂に入ること 
(2)コーヒーや紅茶などカフェインを含む飲み物を飲む 
(3)寝る前のおやつや食事 
(4)睡眠薬がわりの寝酒 
(5)勉強や激しい運動 
(6)テレビ、ゲーム、パソコンなど 
(7)寝る前の喫煙 
(8)明るすぎる室内照明(コンビニエンスストアなどにいくことも)

 次回は、生体リズムをととのえるための生活についてお話します。
(2005/6/1びぃめ~る44号 小児神経科医 宇野正章)

  

2008年01月23日

第14回 特別支援教育推進上の課題~子どもの生活指導1~

 特別支援教育の対象となる子どもたちの多くは、集団の決まりごとが守りにくいだけでなく、規則正しいメリハリのある生活を習得しにくい特徴があります。学校だけでなく家庭でも十分このあたりを配慮して対応する必要があります。その代表的な例として睡眠覚醒リズム(早寝早起きなどのこと)の不安定さを挙げることができます。特に、広汎性発達障害の子どもは、思春期になると、夜寝られない、朝おきにくい、その結果として、学校に行きづらい、学校で集中できないといった症状が出現します。この生体リズムを崩さないようにする指導が大変重要になってきますが、この重要性について、教師や家族が十分認識していないことが特別支援教育や不登校対策の推進上の大きな問題といえます。

 人間をはじめとする多くの生物は、活動する・休む・眠るという基本的なリズム、および体内の働き(自律神経機能・内分泌機能・代謝機能などの様々な生体機能)が1日に約25時間を周期とするリズムで変動しています。そして、この変動のリズムをもたらしているものを、生体時計(体内時計)と呼びます。ヒトの生体時計の持つ1日約25時間を周期とする身体のリズムは、実際の1日24時間より約1時間長いわけですが、社会生活を維持していくためには、1日24時間を周期とする地球の自転にこの生体リズムを調整していかなければなりません。これを環境に合わせる仕組みは、外界のさまざまな事象の時間的変化(同調因子)を手がかりとして、内因性リズムの周期を24時間に微調整しています。内因性リズムの位相と外界の時間の関係を調節する同調機構を知り、睡眠などの生活指導をすることがたいへん重要になってきます。このことを子どもやその家族に関わる大人が、十分に理解して指導することで、多くの発達障害を有する子どもたちがもっと有意義な生活を手に入れることが可能です。

 次回は、生体リズムを維持するための具体的指導についてお話させていただきたいと思います。(2005/4/1びぃめ~るvol.43 小児神経科医 宇野正章)

  

2008年01月23日

第13回 学校の特別支援教育システム

 これまで障害をもつ子どもたちの教育は、「特殊教育」として養護学校や小・中学校の障害児学級で行われてきました。文部科学省の進めている「特別支援教育」は障害児の在籍する「場」が通常学級であっても「一人一人のニーズ」に応えられる「支援体制」や制度をつくろうというものです。通常学級にも特別なニーズ(特別な手だての必要性)をもつ子どもたちが少なからずいます。軽度発達障害児だけでなく、不登校や被虐待児、日本語が話せない帰国子女、経済的に困難を抱えた子ども等も特別なニーズを持つ子どもだといえます。

 その推進体制として以下のことが必要であると思われます。
(1)特別支援教育のための「校内委員会」の確立や「特別支援教育コーディネーター」の校内指名とその人材育成
(2)「30人」「20人」といった少人数学級の実現
(3)すべての子どもの学習する権利がきちんと保障される基本的な条件として、学習指導要領の抜本的な見直し
(4)障害児学級を増やすことや、必要な時間だけ支援を受けられる教室の開設

 これらには、もちろんそれぞれに教員が別枠で配置される、あるいは現状での教員の仕事を合理化して無駄な労働を削減し、特別支援教育に割り当てる時間を増やすことなどの必要があるでしょう。
 次回は特別支援教育推進上の課題についてお話させていただきます。              (2005/2/1びぃめ~るvol.42 小児神経科医 宇野正章)
  

2008年01月23日

第12回 特別支援教育で求められる理想の先生像について

 現在の学校現場は、多くの子どもの対応に追われ、発達障害児にだけに関わることができない状況の中で仕事をされている先生がたくさんおられます。そのような状況をご理解していただいた上で、特別支援教育の先進国であるアメリカでの理想の教師像について、以下に箇条書きいたします。

(1) 疾患のことをよく理解している。(少なくとも学ぶ意欲のある先生)
(2) 子どもの進歩について、定期的に親と連絡をしてくれる。
(3) 子どもの自尊心を守ってくれる。(同級生の前で恥をかかせない。周りからからかわれるのを許さない。)
(4) ルールをはっきりさせて、ぶれない。(子どもが迷わない)
(5) 毅然として温厚。(子どもに操られず、子どもの策に乗せられない。明るくてメリハリがあり少しこわい。)

[1] 内容提示や説明で、子どもをひきつけ、わくわくさせてくれる。(見せ、聞かせ、触らせ、操作させ、複数の感覚に訴える。)
[2] 指示はゆっくり、はっきり。必要なら繰り返す。子どもが間違っていないか確認してくれる。
[3] 生徒のニーズに合わせて、課題の手直しをいやがらない。(子どもの能力にあった課題を出す。宿題の量を減らす。課題の制限時間を伸ばす。計算機などを使わせる。)

 これらの事を実際に行うのは、さまざまな制約のある教育現場ではしばしば困難ですが、私自身このような配慮を先生がしてくださったことで、びっくりするくらいの進歩を見せてくれた子どもさんにたくさん出会ってきたことも事実です。また、これは学校だけでなく、家庭でもこのような対応が望まれることはいうまでもありません。

 次回は特別支援教育の学校のシステムについてお話させて頂きます。(2004/12/1びぃめ~るvol.41 小児神経科医 宇野正章)

  

2008年01月23日

第11回 軽度発達障害と「特別支援教育」

 「特別支援教育」とは、これまでの特殊教育の対象の障害(知的障害や情緒障害など子ども全体の1.5%)だけでなく、その対象でなかったLD、AD/HD、高機能自閉症などの軽度発達障害(子ども全体の6.3%)も含めた障害のある児童生徒に対して、適切な教育や指導を通じ、必要な支援を行うものです。これは、対象児童一人一人の教育的ニーズを把握してその児童生徒のもてる力を高め、学校における生活や学習上の困難を改善、または克服することを目的としています。

 文部科学省は、平成19年度までに特別支援教育のシステムを全国すべて学校に広げることにしています。この対応が進めば、抑うつなどの二次的な情緒的問題の発生率を下げて不登校やひきこもりなどを減らすことにより、社会的自立の可能性を高めることで、結果、将来の社会の利益に資することが可能となる取り組みとして評価することができます。

 しかし、特別支援教育を推進するためには、子どもをトータルに見ていく視点が、学校現場だけでなく保護者や地域社会に必要なのです。もしこれが欠落しているようであれば、まさに“絵に書いた餅” になってしまうのではと危惧しています。つまり、学習、対人面、生活(食事・運動・睡眠など)、医学(アトピーなどの身体疾患、発達診断など)、心理面、経済面などについても幅広く見ていくことです。このためには、教員、親あるいは医師などが意識改革し、それぞれの専門領域の勉強をより深く学んだ上で互いに連携していくことが必要になってきます。これがなくては、いくら人やお金をつけても(実際はつきませんが)このシステムは進んでいかないと考えます。

 次回は教育現場でいかなる支援が必要かについてお話したいと思います。         (2004/10/1びぃめ~るvol.40 小児神経科医 宇野正章)
  

2008年01月23日

第10回 学習とリタリン

(1)はじめに  リタリンは、学習障害、注意欠陥多動性障害、高機能広汎性発達障害の子ども達のうち、不注意や多動を有する子どもへの投与が日本でも広く行われています。不注意・多動・衝動性すべてに有効ですが、特に不注意に対する効果が高いようです。集中力を高め学習効果をあげることで、自己評価を高め学習などに前向きに取り組めるようにすることが、このお薬を処方する目的です。AD/HD症例の60~80%に有効と報告されています。

(2)薬理作用  注意に関わる脳の前頭葉(前の部分)のドーパミンの濃度を上昇させることにより、この部分を活性化させ不注意を改善すると推定されています。内服後30分くらいから効果が現れ、3~4時間ぐらいで効果は消失します。リタリンの内服によって上昇したドーパミンの濃度は、リタリン中止後もやる気や自信が維持できれば低下しないことが知られています。

(3)副作用  内服後1~2時間以内の吐き気・嘔吐・食欲不振はときに見られる副作用ですが、これらの症状は、内服を続けるうちに数日で消失することが多いです。海外において大規模な副作用研究が繰り返しなされていますが、その安全性は十分に検証されています。

(4)服薬の実際  朝1回少量の内服から開始し、徐々に増量して有効な投薬量を決定します。3~4時間しか効果が持続しないので、昼からも授業などがある場合は、学校で昼の内服も追加します。また、土・日や長期の休みなどは必要がなければ内服しなくてもかまいません。薬剤の効果や有効量の判定は、内服後1~3時間の様子を見て判断しますが、家庭の様子だけでは効果判定が困難なので、学校にも薬効評価を依頼して総合的に判断することが必要です。

 次回は軽度発達障害と特別支援教育についてお話したいと思います。              (2004/8/1びぃめ~るvol.39 小児神経科医 宇野正章)
  

2008年01月23日

第9回 広汎性発達障害における薬物療法

広汎性発達障害で使用される代表的な薬と、改善が期待できる症状は次の通りです。

(1)SSRI: 視線、こだわり、言語コミュニケーション、抑うつ、自発性の低下。
(2)リタリン: 不注意、多動。
(3)ハロペリドール・リスペリドン: 興奮、パニック、常同運動・こだわり・焦燥・フラッシュバック・強迫症状・チック。
(4)テグレトール: 衝動性、いらいら、攻撃性。
   
 上記の症状は、子どもの持つ特性、環境やそれに伴う心的反応などの結果として生じるものです。したがって、症状の発現にかかわる誘因が何かによって、同じ症状でも選択薬剤は異なります。そして、薬物療法を開始するにあたって、療育や教育の工夫が先にあり、薬物はあくまでもその補助としておこなうべきことを医療・学校・福祉・家族が周知する必要があります。
 激しい問題行動などについて周囲の工夫だけで乗り切るのはしばしば困難で、無理をすると結局問題を複雑化させ、本人の長期的なダメージを残す恐れがあります。このような状況であれば、服薬をためらうべきではないと思います。薬物療法は、問題行動の悪循環を効率よく脱し、良い循環に入るきっかけの一つとしては極めて有用です。
 ただしお薬の効果をより高め、長期的な有効性を確保するためには、本人、家族および教育・療育関係者が服薬について納得し、本人の気持ちが落ち着き、周囲がサポートすることで楽しい行動がたくさんできる体験をさせることが不可欠です。お薬の最終目標は、飲んで症状を改善することではなく、飲まなくてもうまくできるようになるために飲むものなのです。
 次回は学習とリタリンについてお話したいと思います。                            (2004/6/1びぃめ~るvol.38 小児神経科医 宇野正章)
  

2008年01月10日

第8回 広汎性発達障害における医学的アプローチ

 広汎性発達障害(PDD)の医学的アプローチは、以前はPDDを生物学的に考える傾向は少なく精神療法が中心でしたが、今日では、主として薬剤による対症療法が主流となってきています。薬剤は、広汎性発達障害を治すというよりも広汎性発達障害の子どもが見せる症状を緩和するという意味合いが強いものです。

 薬剤の対象となるPDDの症状は、一次障害といわれる中核的ハンディキャップ「コミュニケーションを含む対人的相互性の障害」「強迫的で限局化された精神活動や行動の様式」を直接治療対象とするのではなく、関連症状を対象とします。すなわちPDDに付随して現れやすい症状である多動、ステレオタイプ(無意味に見える紋切り型の反復)、自傷、かんしゃく、パニック、情動不安定やイライラ、感覚過敏などに対して薬剤が処方されます。近年、開発されたSSRI*1などのいくつかの薬剤の有効性についての報告が集積されつつあり、今後、薬物療法が飛躍的に進歩することが期待されます。

 以下は余談ですが、先日テレビで話題になった自閉症に対する治療法である予防接種に含まれる水銀を除去するキレート剤投与の有効性については、確かな医学的エビデンス(証拠)はほとんど存在せず、これは一部の狂信的な専門家の意見であり、医学会では否定的見解が一般的です。自閉症との関連はさておき、水銀自体は人体に有害なものなので、ワクチンから取り除く方向ではあります(これは自閉症の原因が水銀と認めたわけではありません)。リタリン*2についての度重なる誤解を招きかねない報道をはじめとして、この分野におけるマスコミのセンセーショナルな取り上げ方については大いに問題があると言わざるを得ません。
 次回は、PDDに用いられるいくつかの薬剤についてお話したいと思います。
     (2004/4/1びぃめ~るvol.37 小児神経科医 宇野正章)

※1 SSRI:不安や抑うつを軽減する薬
※2 リタリン:不注意や多動を改善する薬
  

2008年01月10日

第7回 広汎性発達障害の症状<3>~感覚過敏について1

 広汎性発達障害(PDD)児たちはさまざまな過敏さを持っていることが知られています。それは、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)すべてに生じ、これら感覚過敏を重複して持つ子どももいます。なぜこのような感覚過敏が生じるかについては、脳(特に情動や感覚の入力等に関わる古い脳)の機能の不安定さが関与していると考えられています。

 また感覚過敏は“特異な行動”を伴うことで明らかになります。すなわち、耳を塞ぐ、目を覆う、偏食になる、身体接触を嫌う、服や靴下を脱ぎたがる、人の視線を避ける、教室から飛び出す等々の行動化によって、本人の異変や苦痛が周囲に伝えられます。これらの自己流対処方法により特異な行動に出てしまう彼らの対処行動パターンを周囲が理解し、子どもを追いつめない(刺激過多にしない)配慮と、そうなった時のより適切な対処のしかたを教えられる人間関係(信頼関係)の構築が求められます。
 次回もこれに引き続き、感覚過敏についてお話したいと思います。
     (2004/2/1 びぃめ~るvol.36 小児科医 宇野正章)




  

2008年01月10日

第6回 広汎性発達障害の症状<2>~パニックについて

 今日はパニックについてお話します。
 広汎性発達障害のある子どもさんは、こだわりや不安の表現としてパニックを起こしますが、パニックが起こりやすい状況には特徴があります。家庭では、基本的に物や人など周囲の状況が十分把握できている環境であること、自分の好きなことに没頭していることが多いことなどが理由で、パニックを起こさず落ち着いた行動をとることができるケースが多いようです。一方、学校では、授業中など状況が把握しやすい場面では落ち着いて参加できることが多いですが、休み時間や体育の授業などのため移動しているときなど、自由に好きなことができる、あるいはざわざわした無秩序な状況になるとパニックを起こすことが多いようです。

 このように家庭と学校、授業中と休み時間などで行動パターンが変わってしまうといったちぐはぐな面が特徴です。学校と家庭での様子があまりにも違うことが、学校での様子を保護者の方にお伝えしても理解が得られないことが多い原因のひとつです。また、感覚の過敏さも広汎性発達障害の子どもさんたちにさまざまな影響を与えます。次回はこの感覚過敏についてお話したいと思います。        (2003/12/1 びぃめ~るvol.35 小児科医 宇野正章)
  

2008年01月10日

第5回 高機能広汎性発達障害の症状<1>

 広汎性発達障害は、DSM-IVという診断基準を用いて症状から診断されますので、正しい症状の把握が診断には大変重要になります。診断基準に記載されている症状について以下に列挙します。

(1)社会性の障害 
  [A]視線の合いにくさ
    顔の表情・体の姿勢・ジェスチャーの不自然さ
  [B]年齢相当の仲間関係ができない
    友だち関係に興味を示さない
  [C]興味のある物を見せたり、持ってきたり、
    指し示すことをしない
  [D]一人遊び。人を道具的に使う

(2)コミュニケーションの障害 
  [A]話し言葉の遅れ、欠如
    ジェスチャー・物まねによる代償がない
  [B]しゃべらない、逆に一方的にしゃべりまくるなど
    他人と会話を始めたり続けることの著明な障害
  [C]言語の常同的反復的使用
    奇妙・風変わりな言語、単調、変な抑揚
  [D]年齢に応じた模倣またはごっこ遊びの障害

(3)こだわりなど 
  [A]興味のパターンに没頭
    (カレンダー、時刻表、気象、野球の統計、俳優のアクション
    ある一定の物・形・色など物事の同一性に固執)
  [B]決まりきったやり方、融通の利かない執着(道順、手順)
  [C]奇妙な運動の癖
    (手、指を振る、くねらせる体全体の動き)
  [D]物の部分に持続的に執着
    (ボタン、体の一部、紐、ゴムバンド、ロゴ、マーク)

 これ以外にも、不注意・多動・パニック・かんしゃく・しゃべりすぎるなど、ADHDのような症状や不器用・感覚の過敏さなどもよく見られる症状です。学習面では、文章理解が悪いなどの困難さも頻繁に認められます。これらの症状は個人差があり、100人いれば100通りのパターンがあるといえますが、根底にある問題は共通しています。次回は学校や家庭で実際に見られる症状についてお話します。   (2003/10/1 びぃめ~るvol.34 小児科医 宇野正章)
  

2007年12月23日

第4回 広汎性発達障害(PDD)について

 「広汎性発達障害」(略称PDD)とは、自閉症とよく似た社会性の障害を中心とする発達障害のことをいいます。これに含まれる病気として自閉症やアスペルガー障害などがあります。特にIQが70以上の知的障害のない子どもを高機能広汎性発達障害と呼ぶことが一般的で、この高機能広汎性発達障害の中には高機能自閉症、アスペルガー障害とその他の高機能広汎性発達障害があります。

 自閉症とアスペルガー障害の違いは、(1)社会性、(2)コミュニケーション、(3)こだわり・想像力のうち、3つとも障害が見られる場合に自閉症、(2)コミュニケーションの障害がないものをアスペルガー障害といいます。この2つの障害を分ける必要性については専門家の間で議論がなされていますが、根底にある問題は両者に共通ですからあえて対応を変える必要性はないと思います。最新の調査では全人口の1%くらいが広汎性発達障害で、その約半数が高機能であると推定されています。
 広汎性発達障害の症状やその対応については、次回以降でお話します。 (2003/8/1 びぃめ~るvol.33 小児科医 宇野正章)

  

2007年12月23日

第3回 注意欠陥多動性障害(AD/HD)児への対応について

 AD/HDの対応は、大きく分けて家庭・教育・医療の3つがあります。ただし、対応の主たる場は家庭と教育であり、医療はむしろそれをサポートすることになります。そして、対応の目的は、自己評価を下げないようにすることに主眼が置かれます。そのためには、特に家庭や学校で「ほめる」ことが大切です。同年齢児と比較するのではなく、本人の以前と比較して良くなっているところを見つけてほめること。叱るときは、周囲に迷惑をかけることだけにして、他は多めに見てあげること。これだけでも、ずいぶん落ち着いてくることがあります。小学校低学年までに叱られて育った子は、それ以降、引きこもり、体の不調、暴力的・反抗的といった行動面の異常が顕著になってきます。小学校低学年で見られる落ち着きのなさも4年生くらいになると自然に落ち着いてきますから、あまり神経質になって叱らないようにすることが、小学高校学年から思春期にかけての激動の時期に心の問題を引き起こさないことにつながります。

 最後に、医学的な対応についてですが、リタリンという薬剤が治療の中心になっています。比較的安全に使用でき効果も高いですが、薬剤だけに頼り、家庭や学校での対応を怠ると薬剤の効果はあまり期待できません。したがって治療には、家庭・教育・医療との連携が大変重要になってきますので、学校や教育現場と連携をとってくれる医療機関で診断治療を受けるようにしてください。 (2003/6/1 びぃめ~るvol.32 小児科医 宇野正章)

<参考情報>
NPO法人「えじそんくらぶ」
URL http://www.e-club.jp/

ADHDを正しく理解し、支援の輪を拡げる目的で設立、運営されている。事務局(埼玉 県)を中心に、全国各地に会員による自助グループがある。ホームページでは、活動報告のほか、基礎知識から参考図書、関連学会議事録なども紹介されている。
  

2007年12月17日

第2回 AD/HD(注意欠陥/多動性障害)って

  今回はAD/HDについてお話します。AD/HDとは、発達の段階に比して「不注意」「落ち着きがなく衝動性が高い」のどちらか、あるいは両方が見られるお子さんで、これらの症状のために家庭や学校生活で大変な困難を伴う場合に診断されます。こんな症状があっても、楽しく充実した生活が送れ、自己評価に問題が生じていないようなら、あえて診断する必要はありません。原因は、多くが生まれつきのもので、遺伝性が高いことが知られています。したがって、親のしつけとはもちろん関係ありませんし、しつけを開始する前、すなわち赤ちゃんのときからカンが強く、落ち着きがなく、育てにくいといった症状が見られます。

 小学校というのは、生まれて初めてある一定時間じっとしていることを要求されるところで、多動や不注意の子には苦手な場所なのです。小学校に入ってから症状が目立つようになり、初めて問題となるお子さんがいますが、よくよく小さいころの話を聞くとやはり落ち着きのなさは必ず一貫してみられるものです。「いつ・誰が・どこで」見ても症状が存在することが、診断には必要です。もし乳幼児期に落ち着きのなさが見られず、途中から出現してきた場合は、環境要因やほかの病気(うつ病・適応障害などの心や脳の病気など)を疑ってみる必要があります。                             (2003/4/1 びぃめ~るvol.31 小児科医 宇野正章)

  

2007年12月17日

第1回 「軽度発達障害」について

 「発達障害」というのは、言葉としては「心身の機能の発達が困難な、あるいはきわめて緩慢な状態」と定義されています。ただ、「発達障害」と一口に言っても、さまざまな障害がありますし、その障害の現れ方も千差万別です。共通しているのは、脳の機能的な問題が先天的に存在し、幼少時から症状が見られることです。親のしつけが悪くて発症する訳ではないのです。

 発達障害の中で、障害の程度が軽く、一見普通と変わらない子どもたちを「軽度発達障害」といいます。その代表的な疾患として、
(1) 不注意で落ち着きのない「注意欠陥/多動性障害(AD/HD)」
(2) 特定の学習だけがすごく苦手な「学習障害(LD)」
(3) 人との付き合いが苦手でこだわりのつよい「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」を含む、「高機能広汎性発達障害」
が挙げられます。
 
 軽度発達障害の問題は、まさに軽度であることがその問題であるということができます。すなわち、目に見えにくいせいで障害があるのに気付かれないのです。そして単なる親のしつけの問題、性格の問題と取られてしまったりします。また、軽症とは言っても、発達障害者にとっては学校生活に馴染むのは難しく、いじめや周囲の理解不足から度重なる叱責を受け、その結果、自尊心がとても低くなって二次障害(うつ病などの気分障害、ひきこもりなど)にもなりやすくなってしまいます。ですから、このようなことにならないための対策が重要になってきます。すなわち早期発見・早期治療ですね。
 人口の約1割にも上るといわれている脳の発達に軽度の障害がある子どもたちに対して、文部科学省は初めて対応の必要性を認め、調査を開始しさまざまな取り組みを始めました。しかし、ようやくその取り組みは緒についたばかりです。                     (2003/2/1 びぃめ~るvol.30 小児科医 宇野正章)